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第一章 12 助っ人

 

 

 

 

 

 アランは地理にくわしいマリーを頼りきって山を歩いていた。

 

 獣道さえもないのに、マリーの足取りには迷いが無かった。

 

 マリーは時より払った枝が返らないように押さえアランを振り返って待つ。

 

 

 マシューの言葉が気になった。

 

 封印を解いたからにはって・・・

 

 ついさっき引っ張られた耳たぶに触れる。

 

 そこにはまだしっかりと雫型のガーネットが付いている。

 

 一緒に人生を歩いて来た耳飾りにアランは思いを馳せた。

 

 

 

 小さな自分の耳にはまだ重い耳飾り。

 

『これはお前の力を隠すお守りだよ・・・ここにいてはお前に未来はない。サラザーリに逃れて生き延びなさい。さぁ。』

 

 父の大きな腕が一旦は離れるが、もう一度引き戻される。

 

 そして小さな額に祝福の口付けが落ちた。

 

 

 

「お〜い!」 

 

 

 呼ばれてよく見てみればいつの間にかに谷を降りきっていた。

 

 マリーは目の前の川の先に立ってこっちを見ている。

 

 腕には手土産の小包を抱えていた。

 

 安定の良さそうな石を選んで渡るのを心配そうに見ている。

 

 アランは気付かないふりをして身軽に最後の石を跳ぶ。

 

 マリーはまた茂みに入ってすたすた進む。

 

 しかし、次第に歩調が遅くなってくる。

 

「マリー、そろそろ休むか?」

 

 アランが言うとまた心配そうに振り返る。

 

「アルこそ疲れてない?」

 

「戦闘訓練を積んでるから、これくらいなんともない」

 

 アランは不服そうに答える。

 

「アランは・・・」

 

 マリーは立ち止まった。

 

 怪訝そうにアランも三歩手前で立ち止まる。

 

「・・・花ちゃんが手伝ってくれたら、アルもまた戦いにいくんだよね」

 

「は、花ちゃん・・・てじぃさんの知り合いのこと?」

 

 こちらに背を向けたままマリーはうなずく。

 

 ふわふわの銀髪に夕日が射す。

 

 アランはマリーの言わんとする事を察した。

 

「俺は、ガルスのために働きたいんだ・・・」

 

 アランは距離を詰めるのはためらった。

 

 またマリーは奥に進み始めた。後を追う。

 

「またいつか会えるかな」

 

 マリーはぼそっと言った。

 

「え」

 

 アランは顔を上げた。

 

「だ、だって・・・えっと、その、え〜っと」

 

 マリーははっとして視線を泳がせる。

 

「同じ歳くらいの友達ができたのははじめてで。えっと・・・」

 

「そう、だったのか」

 

 アランはなぜかすごく納得がいくというように頷いた。

 

 そしてそれ以上お互いに追求し合わなかった。

 

 

 しばらくするとマリーが再び足を止めたのが音でわかった。

 

「着いたよ」

 

 

 最後の枝を掻き上げると手前の茂みの向こうに高大な岩壁がそびえている。

 

 

 太陽はもう谷からは見えなくなっていた。次第に暗くなってくる。

 

 

 マリーの横まで行くと、そこの岩壁に何やら模様らしきものが刻まれている。

 

「これは・・・読めないな」

 

「読めなくても大丈夫」

 

 マリーはその模様に手をおく。

 

「じぃちゃんがアルに来させたんだから、アルにもできると思う」

 

「手を置くだけか」

 

「じぃちゃんはそうやったけど」

 

 訝しげな顔でアランも一応手を置いてみた。

 

 

ドックン・・・

 

 手を置いたところに何かの鼓動を感じる。

 

 

ドックン・・・

 

「アル」

 

 シャツをマリーが引っ張る。振り返ると、空を見上げて顔を引きつらせている。

 

 

「どうした?」

 

 

「あれって・・・満月??」

 

 

 マリーが指差す方向にはまんまるに満ちた月が輝いていた。

 

 

「たしかに満月だな」

 

 

 マリーは青ざた。

 

 

「じ、じぃちゃんにはめられたぁっっ!!!」

 

「はぁ?!」

 

「アル!危ない!!」

 

 

 マリーに突き飛ばされて、反射的に振り返ると、自分が立っていた地面がえぐられて消えている。

 

 頭上に大きな影が落ちる。

 

 

「アル!逃げて!!!」

 

 

 その影を仰ぐと岩壁の在ったはずの場所に巨大な生物がこちらを見下ろしていた。

 

 

「ド・・・ドラゴン?」

 

「アルっ!早くこっち!!」

 

 

 マリーが腕を引っ張った。

 

 二人は茂みを一目散に掻き分けて逃げ出す。

 

ヒィィィーーーーーーーン

 

 

 ドラゴンの鳴き声がすぐ後ろからこだまして、火炎が吐き出される。

 

「あっ!!」

 

 

 躓いたマリーすかさずを腕に捕まえると、アランは振り返り、素早く印を切って手を掲げる。

 

 襲いかかる熱線が両断されると、マリーを抱えたまま踵を返してまた駆ける。 

 

 

「おいっ!あれがじぃさんの知り合いなのか!!!」

 

「そ、そうだけど、満月の日はただでさえ怖い花ちゃんが最悪に機嫌の悪い日なんだった」

 

 

 更なる熱線から身を守り、全速力で茂みを駆け抜ける。

 

「どうすればいいんだ!きりがない!!」

 

 

 また熱線が飛んでくる。急に茂みの開けた空間で振り返ってアランが印を切る。

 

 

「そうだ、降ろして!」

 

 

 マリーはとっさに力の緩んだ腕からすり抜けると、アランの前に立ちはだかる。

 

「無茶はやめろ!」

 

 

 アランは印をマリーの前までとっさに飛ばす。

 

 間一髪で炎が左右に切り裂かれる。

 

 

「花ちゃん!!!」

 

 マリーの視線の先には空から、牙をむき出しに下降してくる巨大なドラゴンがいた。

 

「マリーー!!!」

 

 

 ダメだ、間に合わない!

 

 

 アランは激しい衝撃に身を固くする

 

 

「っっ!!!!」

 

 激しく翼がはためく音が聞こえ、巻き起こる風に目をつむる。

 

 

 そして何か生暖かいものが体を伝う。

 

 だが、自分の体に痛みはない。

 

 銀の髪と遠くに飛び去るドラゴンが視界をかすめる。

 

 

「・・・!」

 

 アランははっとして、覆いかぶさっていた小さな体を抱き起こす。

 

 しかし、マリーは先に自分で起き上がった。

 

「た、助かったぁ」

 

「お前、その血!」

 

「あ〜」

 

 アランがシャツの袖を引き裂くのを見ながらマリーは思い出したように、派手に切って出血している額に手をやる。

 

「ちょっと貸せ」

 

 強引に白い手を赤く染まった額から剥がす。

 

 白い額がぱっくりと切れている。

 

 アランはそこを布でなぞってから抑えて簡単な治癒魔法を施すと、マリーを睨んだ。

 

「顔こわいですけど・・・」

 

「無茶はやめてくれ。心臓に悪い」

 

 まっすぐに澄んだ瞳で見つめられて、アランはまた思い出したように赤面する。 

 

 

「花ちゃんは?」

 

 助かったとばかりにアランは慌ててドラゴンの飛んでいった方向をみた。

 

 

「もう暗くて見えないな」

 

 

「じぃちゃんのお土産受け取ってたし大丈夫かな」

 

「・・・土産投げるために飛び出したのか?」

 

「うん。だって、じぃちゃんが投げろって言ったし」

 

「おまえなんでもじぃさんの話を鵜呑みにするのか!」

 

「うん」

 

 それをよそに、アランはそのじぃさんの言葉を思い出す。

 

 

『そいつがいればの、サラザーリなどくしゃみ一つで吹っ飛ぶわぃ』

 

 

 あれでサラザーリが吹っ飛ぶ・・・

 

 

 鵜呑みにするなと言ったものの、アランはドラコンの飛んでいった方向をもう一度見上げる。

 

 

 

キィィィーーーーーー

 

 突然、奇声と共に茂みからさっきよりは十周りも小さいドラゴンが出てきた。

 

「!?」

 

「あ、太郎!」

 

「おい、マリー!」

 

 マリーは小さなドラゴンに駆け寄る。

 

 確かに見た感じ、花ちゃんよりは獰猛ではなさそうだ。

 

 マリーは小さなドラゴンの鼻を撫でると、決心したようにアランを見た。

 

「さぁ、行こう」

 

「行こうってどこへ・・・」

 

「ガルスを守るんでしょ」

 

「お前は連れて行けないだろ・・・」

 

 銀髪が月光を浴びて不思議に光る。

 

「アル、方向わからないでしょ?」

 

「そういう問題じゃ・・・」

 

『封印を解いたからには、マリーを頼んだぞ』

 

 アランは頭を押さえた。

 

「じぃさん・・・か」

 

 

 

 

 久しぶりに当たる風はなかなか気持ちよく、風になびく翼から伝う振動を楽しみながら、ドラゴンは晃晃と明るい夜空を舞っていた。

 

 

 快眠を妨げられて気分を害したが、今はすっきりと頭が冴えている。

 

 

 久しぶりに現れたかと思えば・・・

 

 

 マッタイアスではなかったな。

 

 

 私を起こしたからには血縁だろうが・・・

 

 

 あんなガキを遣わせて私を働かせるとは。 

 

 

 ドラゴンは大きな鼻を鳴らす。

 

 

 だが面白い。

 

 

 小包から弾き出た光で綴られた伝言。

 

 

 『長い人生には100年に一度くらい、スパイスも必要だろ』

 

 

 あの男もやっと何かしでかす気になったのだろうか。

 

 

 『サラザーリ国境の街を囲んでくれ』 

 

 

 ドラゴンは遥か下方の地上の街の方へ、風を切る。

 

 

 頼まれてやろう。

 

 

 

 『PS くしゃみすんなよ』

 

 


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