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第一章 11 転がされる運命

 

 

 

 

 

老人は帰ってきたマリーの前に立つと、真剣な顔をして髭を揺らす。

 

 

「さて、マリー。わしはの、しばらく旅にでる」

 

 

「えぇ、またぁ?」

 

 マリーはがっかり肩を落とす。

 

 

「アルが面倒を見てくれると言っておるし」

 

 

「は?」 

 

 

 二人の注目からアランは一歩後退する。

 

「なんでアルなの?」

 

「なんでも」 


 老人だった人は、白髪の艶髪を掻きあげて、にっこり爽やかに笑ってみせた。

 


「いや!頼ってもらっても困るんですけど!どうせガルスに戻っても生きて帰れるか!」

 

 

 老人は青年の胸ぐらを掴んで、木の椅子に座らせる。

 

 

 年を思わせないいたずらな瞳やすっとたった背筋はりんとして、こう見るとなかなか男前だ。

 

 

「ワシがガルスはどうにかしてやると言っておる」

 

「じぃちゃん、そんな事できるの?!」

 

 

「ワシにできん事はない!」

 

 

老人は鼻息を荒げて胸を張ってみせた。


 

ここまできて、アランはとあるものに行き着いた。

 


よくよく考えてみれば、どこかで見たことがあるような気がするのだ。この老人を。

 

 

自分を信じられないという顔で凝視する青年を老人はにやにや見返している。


 

「・・・・・・・・・・・・あ。・・・え?!」


 

 アランが声を漏らしかけると、老人はまるでそれが聞こえていたかのように、唇に人差し指をたてた。

 

 

 そして艶っぽく睨む。

 

 

「やはりワシがガルスがを見捨てる訳にもいくまい」

 

 そう囁くと、顔を離してから付け足す。

 

 

「ということで、奥義を伝授しよう。名付けてガルスの救命大作戦

 

 

 この劇的宣言をマリーはいつものお茶の間の前のように楽しんでいた。

 

「今日の冗談はメガ級だね、じぃちゃん!ハハハ

 

「じゃろ〜

 

「あはは!」

 

「・・・。」

 

 

 

 

 秋空に鳥の声が響く。

 

 机には三時のおやつが並び、ハーブの香りがお茶から漂っていた。

 

 木のお椀にこんもり積まれた焼き菓子をかじりながら、青年姿の老人ことマシューはその地図上の一点を指す。

 

 

「ここにワシの古い知り合いがいるから訪ねるといい」

 

 一緒になって覗き込むマリーに眉根を寄せながらアランもその点を確認する。

 

 これと言って特別なものはない。

 

 ちょうどこの山の裏側くらいだ。歩いて半日程度かもしれない。

 

「訪ねればいいとはどういう事ですか」

 

 アランは怪しむように、向かいにふんぞり返って座っている老人を見た。

 

 老人としてあり得ない表情や仕草がいちいち気分を悪くさせる。

 

 それを見透かしているのか、マシューははだけた胸元を掻いてみせた。

 

「そいつがいればの、サラザーリなどくしゃみ一つで吹っ飛ぶわぃ」

 

「くしゃみひとつ?」

 

 アランは眉間に四本目くらいのしわを入れた。

 

「ワシを信じるなら行けばいいし、まぁ、無理なら好きにするといい」

 

 信じるも何も・・・

 

 この人の前に選ぶ余地はなさそうだった。

 

 なぜか有無と言わせぬ威圧感がある。

 

 しかも自分の憶測があたっているば、もしかしたらこの人は・・・

 

 

「じぃちゃん、わたし何だかわかっちゃったかも!」

 

 マリーはポンと手を叩くものの、珍しく不安そうな顔をした。

 

 嫌な予感がよぎる。

 

「てゆーか、俺が行くよりあなたが行った方が確実・・・」

 

 マシューはふんと鼻を鳴らしてそれを却下すると、どこからか小包をだしてきた。

 

「マリーも行くんじゃよ。これはあやつへの手土産じゃ。明後日の方向に投げるといい」

 

「えぇ!」

 

 マリーは小包を受け取るも、とてつもなく不服そうだ。

 

「おまえ、こないだは俺に付いてきたいってたのに」

 

「だって」

 

「ま〜ま〜。早く行った方がいい。日が暮れてしまうからの。それに今日でもぎりぎりってとこだ、お前が長い事眠っておったからの。ふぉっふぉっ」

 

 

 青年姿老人は窓際にたって空を見やった。

 

 

 眩しそうに漆色の眼を細めると、振り返ってアランの耳元で囁く。

 

 

「ガルスを救いたくば早く行って、後はワシに任せろ」

 

 

 アランは眼を見開く。

 

 

 そっくりの双眸がそこに映る。

 

 

 その言葉をどこまで信用できるのだろうか。

 

 

 どっちにしろ、一介の兵士である自分にできる事など所詮たかが知れているのだ。

 

 

 アランは冷静に考えてから、諦めたように言う。

 

 

「わかりました」

 

 

 そして一歩前に出た時、後ろから耳飾りを引っ張られる。

 

 いたずらそうなにマシューは言った。

 

「・・・封印を解いたからには、マリーを頼んだぞ。」

 

「彼女はここにちゃんと返しますから!」

 

「無理じゃよ。あいつとは切っても切れない縁になってしまったからのう」

 

「・・・どういう意味ですか?」

 

 

「とにかくワシのいうことは聞いておいた方がいい」

 

「あなたは、やはり父の家系の・・・」

 

 

 マシューは返事代わりににやっと笑った。

 

 

 この青年に訳がわからなったはずもないだろう。

 

 

 ちょうど重い腰をあげた時には、一気に色々物事は転がるんだから、まったく面白いもんだ。 

 

 

 


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