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第一章 4 秘密の顔

 

 

 

「陥落した要塞を守っていたフォーク公爵家は逃げた者以外は町中に潜伏しているのを捕らえましたが、全員武力兵でした」

 

 市長のグスタフ候は一瞥もくれず言い放つ。

 

「全員殺せ」

 

「は」

 

 使者がさると高官は頭を押さえて、葡萄酒にまた口をつけた。

 

「全く話にならん。魔法省からは魔力を持った者だけを生かしておくように言われている。ガルスの魔術は謎が多いからな。

  一刻も早く結界を解く鍵を手に入れなければならんのだ、グスタフ候」

 

 

「わかっております、閣下。結界からこちらにはじき出されたガルスの前線にいた兵はかなりいたようです。

  多くが街に潜伏しているようですが、街の警護も厳しくしております故、すぐにでもに魔法師の一人や二人見つかるでしょう」

 

 グスタフ候壁に絵画で飾られた壁を睨む。

 

 あでやかな金細工に縁取られ、岩盤の鉄械に捉えられた聖人が力なく頭を垂らす。

 

「時期にきっと・・・」

 

 

 

 

 

 迷路のように地中に這う牢には、反逆者や昨今の戦いで捕らえられた者たちで溢れかえっていた。湿った岩の壁に多くの腐臭がこもり、いるものの生気を奪う。発狂する者の叫びや、拷問からの断末魔、すすり泣く音がこだまする。

 

 その中でも奥に一人静かに暗闇を満喫する者がいた。

 

「はなせ!殿下に何をする!」

 

「殿下!!」

 

「だまれ!!お前達はこっちだ。」

 

 

 猿ぐつわを噛まされた主から引きはがされ手荒に牢に投げ込まれる。

 

 暗く冷たい地面に体を撃たれる。

 

 錠がかけられる音と共に身を起した時には、光一つなく何も見えなかった。

 

 闇が沈黙を呼ぶ。

 

 

「・・・私たちは終わりだ」

 

 一人が呻くように呟いた。

 

 

「殿下も助かるまい」

 

 足枷ですり切れた肌が痛む。

 

「ちくしょうっ」

 

「もはやガルスも終わりだ」

 

 

「くそぉっ」

 

 切迫した響きが闇へ溶け、こだまする。

 

 男達が嗚咽がもれる。

 

 

 

 その時。

 

「久方ぶりのガルス人だなぁ」

 

 

 

 のんきな低い声が奥から響いた。

 

 驚いて男達は目を凝らすが何も見えない。

 

 

「誰だ!」

 

「ガルス人か?!」

 

 

「押忍!」

 

 

 ボッ

 

 急に浮かんだ明かりの先に男達は目をみはる。

 

 

「あ、あなたは!」

 

 

「ア、アラン様!!?」

 

「アラン様もお捕まりになってたんですか?!」

 

「おう」

 

 明かりをぽぃっと指で宙に飛ばして浮かせると、アランはにかっと笑ってみせた。

 

 漆色の髪がやけにつやっぽく、おもしろおかしげな光が目に輝く。

 

 

「戦況でも教えてくれ。ちょうど退屈してたんだよ」

 

 男達の目に希望の光がともった。

 

「は、はいっ」

 

 

 

 

 アランは笑みを絶やす事無く悲惨な戦況に耳を傾けていた。

 

「王が結界をはってしまった今、私たちは身動きがとれません」

 

「何とかお守りしていたカリタス殿下もお助けするのは無理でしょう。きっと今日中にも処刑されてしまいます!」

 

「こうなった今、アラン様しか指揮をとれる者はいません!」

 

「どうか!」

 

 

 はて。どうしたものか。

 

 ちょっと目を離していた隙に、世の中の動向とはこれほど変わるものだろうか。

  天井から滴り落ちる地下水の音を片隅にアランは、ほとばしる若者のパワーを懐かしむように手に取る。

 

 

「そうか」

 

 これも一興。手を貸してやるか。

 

 

 真剣な眼差しを長い睫毛でさらりと受け流して、胸元から酒瓶をだす。

 

「まぁ、落ち着いて一杯飲め。まずどうしたい?」

 

 

 酒瓶を突きつけられた男は、思いっきりの一口を喉に流し込む。

 

「とりあえず無事に脱出を!」

 

 

 一人が声を上げた。全員がうなずく。

 

 

 アランは目で笑った。

 


「奇遇だね。丁度、私も外に出ようと思ってたところだ。」

 

 

 

 

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