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第一章 5 迂闊

 

 

「じゃぁ、別れる前になんか食料、アルの分も買ってきてあげるよ」

 

 

「あぁ、助かる」

 

 

 

 誇りっぽい雨で汚れた商店の窓をのぞくと、細い無精髭がずいぶんのびている自分の顔があった。

 

  中ではマリーが食料の買い出しをしている。

 

 

  我ながら憔悴している気がする。

 

  本来ならば瞳と同じ色の艶のある髪を掻き上げる。

 

 

 戻れるならば早くガルスへ戻って、平穏な日々を取り戻したい。

 

 

 でももはやそれは叶わない気がした。

 

 

  西軍は少なくともこの眼で見た限り壊滅状態だった。どうせ焦ったところで、今はガルスに入るのは難しい。

 

  結界を破れるまで待つしかないのか・・・。

 

 

 映ったガーネットの耳飾りが鈍く光る。

 

 

 

「アル〜!」

 

 いつの間にかに出てきた少女からどっさりした袋を受け取ると、倒壊した家から掘り出した愛着のある皮鞄につめる。

 

 

「ずいぶん世話になったな」

 

「気にしなくていいよ。私はほんとはガルスがなくなっちゃうのはやだからね!で、アルはこの後どうするの?」

 

 そういいながらマリーは干し葡萄のパンを早速ほおばる。

 

 

「俺はこのまま進んで結界が解けるの待つ。お前はどうするんだ」

 

 

 どうせ別れ際には忘却の術をかけるつもりだが。

 

 大きな水色の瞳がこちらをむく。

 

 

「********ふぁお****へ」

 

「食べてから言え・・・」

 

 

 何かを訴えかける視線の魔力に思わず眼を背ける。

 

 よくこんな目で平穏に生きてきたものだ。

 

 

 自分も言えたくちではないのに、そう思う。

 

 

 少女はパンパンの口を空にすると咳払いして言った。

 

「私、アランに着いていく」

 

「は?」

 

 不可解な表情でさらに口を開こうとした、その時。

 

 

 

 武装した男達と人の流れ越しに目が合う。

 

「あの二人!」

 

 

「!」

 

 

「あの二人だ!不敬罪で捕縛する!」

 

 先刻の武官の顔ぶれに気付いた時には遅く、不意をつかれて殴り倒された。

 

 

「アル!!!」

 

 

 逃げる間もなく少女も縄で縛り上げられる。

 

「痛いってばぁ!離して!!」

 

「うるさい!黙れっ」

 

 

 必死に抵抗する少女に男が手を挙げ、気を失って崩れ落ちた体を担ぎ上げる。

 

「マリー!」

 

「黙れ!これ以上殴られたくなかったらおとなしく同行しろ!」

 

 

 脱力の呪詛付きの縄に吸い上げられ、アランも抵抗する術が無かった。

 

 

 野次馬で集まってきた人たちで人だかりができる。引きずりだされ、馬車の荷台に放り投げられる。

 

 とっさに、降ってきたマリーの体を膝で受け止めた。

 

 

 馬車がガタガタと動き出す。

 

 

「不敬罪だってぇ」

 

「何したんだか・・・」

 

「若者か・・・」

 

 ささやかれる言葉を横に馬車は街へ向かった。

 

 

 

 

 アランは切れた口の血を、肩で拭う。腕に魔力の流れを確かめる。

 

 

 下手に目立つと墓穴を掘るな。

 

 

 やっとという時にまたもや厄介なことになってしまった。

 

 

 しかもこいつを巻き込んだのは不覚だった。。

 

 

 アランは自分たちを捕縛して手前に座る武官と膝の上の少女を見て、口をつぐんだ。 

 

 

 

 

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