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第一章 8 発覚

 

 

 

 

 

 

 汗と血のにおいが立ちこめた暗闇に、白い息が浮かぶ。

 

 

 はっ・・はっ・・ごほぉ

 

 

「なかなか口が堅いな」

 

 

 それでも思わぬ収穫に満足そうにグスタフ候は笑みを浮かべる。皮の鞭を手でしごき直し、青年の顎をそれで持ち上げる。

 

 

「実に見事に同胞を救った。さすが、ガルスの人徳があらわれてるのぅ・・・」

 

 

 青年は動かない。ただ息を激しく吐くばかりだ。

 

 

 グスタフ候は顔をそのまま叩くと、踵を返して卑屈に笑う。

 

 

ジャラッ

 

 

 二の腕を吊るし上げている枷が揺れる。

 

 

「そろそろ、話を聞かせてくれないか」

 

 

 揺れるたいまつの火が揺れる。

 

 

「眼が赤くなったと聞いたんだがね、私にも見せてはくれまいか?」

 

 

 グスタフ候は、眼を固く閉じた青年を睨みつける。全く開く気配がない。

 

 

「足にもう少し錘りを足してやれ」

 

 

 控えていた牢番が不安そうに青ざめた足首の枷に鋼を吊るす。

 

 

「う、あああぁぁぁっっ・・・あっ」

 

 

 激しい苦痛に、眼が見開かれる。

 

 

 そして、みるみる赤くほとばしる。

 

 

「その眼だ! なんと、嘘ではなかった!」

 

 

 憎悪の光が赤く揺らめいた。

 

 

「ふふ、ガルス王家の赤眼は周知の伝説。これは本当にとんだ収穫だ」

 

 

 腕の枷から血が滴り落ちる。

 

 

 グスタフ候はまだ精悍とは言えない細い顎を持ち上げ、煌々と赤い瞳を見据える。

 

 

バシッ!!

 

 

 背中に鞭が放たれる。

 

 

「うあぁぁぁっ」

 

 

 背に伝う血をなぞりながらグスタフ候は満足そうに言う。

 

 

「お前はガルスの王家の者か?」

 

 

「まさかっ・・・はっ」

 

 

「らちがあかないな」

 

 

ざばぁぁっっっ

 

 

「げほ、げほっ・・・」

 

 

 浴びせられた水で一気に体温が下がり、急に寒さが襲う。

 

 

 腕や足にもはや感覚はない。一気に気が遠くなる。

 

 

ジャラジャラ・・・

 

 

 誠意一杯身をよじる程に、力は奪われる。

 

 

 迸る魔力も枷の呪詛に虚しく吸われて、やっとの意識を手放した。

 

 

 

 

 

「明日までには喉も渇いて、何か喋りたくなるだろう」

 

 

 満悦の表情を浮かべる。

 

 

 ガルスを落とす鍵を手に入れた。とんだ功績だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇は静まり返る。

 

 

 虚空の空間にひたひたと近づくものがあった。

 

 

 吊るされた肉体はもう痛みをこえ、苦痛しか頭を支配していない。

 

 

 裂けた肌は乾き、血糊は感情を失った赤い瞳をいっそう美しく引き立てる。

 

 

 

 

 やがて、その瞳を覗く者があった。

 

 

「おまえがアランか」

 

 

 しかし伏せた瞳を上げる力も意識をつかむことさえ出来なかった。

 

 

 瞬間に激しく毛髪を掴み上げられ、声の主が瞳を覗く。

 

 

 激しくギラめく深紅の瞳が、自分を捉える事のない深紅の瞳を刺す。

 

 

 

「まったく無力で無様だね」

 

 

 

 吐き捨てるような台詞が穏やかに響いた。

 

 

 

 あなたは・・・

 

 

 

 声は出てこない。

 

 

 ただすり抜けてゆく意識の間にその存在を把握する。

 

 

 妖艶な笑みをアランは捉える事はない。必死に集中するが、虚しく意識は遠のいてゆく。

 

 

 

 

「アル!」

 

 

 

 ただ、最後にマリーの声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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