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第一章 9 目覚め

 

 

 

 

何もかもが夢だったように思わせる朝だった。

 

 

 小鳥のさえずり。

 

 揺らめく陽。

 

 温かな温もり。

 

 気の温かな温もりの天井。

 

 

 ここは・・・

 

 

「じぃちゃん!アルが起きた!じぃちゃん!!」

 

 

ダダダダダダダダ

 

 

「遂に起きよったか!」

 

 え?

 

ベシッ!!

 

「じぃちゃん!」

 

「ワシの愛孫を街に連れ出すとは!こんちき野郎め!」

 

 ベッドがから引きずり降ろされ、すかさずひっぱたかれた頬を触ろうとしたところ、反対かわもひっぱたかれる。

 

「いってぇ」

 

 視界に銀髪の少女の顔が映る。

 

 無事だったのか・・・

 

「マリー」

 

ガスッ

 

 すかさずアッパーもくらう。

 

「じぃちゃん!」

 

「これくらいじゃ、全く気がすまん!一生こき使ってやる」


 

 呆然とこの状況を飲み込もうとする。

 

 

 一体、何が起きたんだ・・・?

 

 

 背中にかすかに痛みが走り、記憶が甦る。

 

 

「そうだ・・・俺は・・・どうやって?」

 

「じぃちゃんがアランをつれて帰って来たんだよ。覚えてない?」

 

 

「そ、そうなのか」

 

 覚えていない。

 

 マリーの大きな目が心配そうに覗く。

 

 

「怪我、痛い?」

 

 

 ベッドの足に寄りかかった自分の体を見る。

 

 

 打たれた無数の傷がない。

 

 

「治ってる・・・?」

 

 

「三日も寝てたから」

 

 

 三日だけ?

 

 

 アランが狐に包まれた顔をしていると、あたたかな腕が絡み付いてきた。

 

「死んじゃったのかと思ったよ!」

 

 ふわふわの髪に口が埋もれてくすぐったい。

 

 ぎゅっと腕に力がこもると、アランの頭はすっからかんになった。

 

 

「あ・・・」

 

 

 みるみる頭に血が上る。


 細いからだが綿の服越しに密着しているのを感じると、あわててマリーを自分から引きはがす。

 

「わ、わかったから」

 

 気がつくと老人の鋭い視線が注がれている。

 

「食事にするぞぉ」

 

 ドスの利いた声が響く。

 

「ていうか・・・お前のじいさん死んだんじゃ・・・・」

 

「それがアランに落とされて、私も気がついたらじぃちゃんにおぶわれてて。まだ生きてたみたい」

 

「は?」

 

 

 木造の可愛らしい小屋の煙突からは、遅い煙が上がっている。

 

「しかもあの家、壊れたはず・・・?」

 

 

 

 

 豪快な笑いが食卓に響いた。

 

 

「ワシがそう簡単に死ぬ訳無いじゃろうが、マリー。街に降りるなんて早とちりじゃ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「しかも牢にぶち込まれる様な男と駆け落ちなんて。ガルス人ってとこは見る目があるがの〜」

 

「・・・・・・。」

 

「駆け落ち?」

 

 数日前座った消えたはずの場所にすわり、同じく朝食をとっている。

 

 何か違う事があるとすれば。

 

 始終、自分を睨めつけている白髪の老人。

 

 それと、豆しか乗ってない自分の皿。

 

 

 これは、嫌がらせなのだろうか?

 

 

 古びた木のフォークで逃げる豆をつつきながら、おそるおそる老人を見上げる。

 

「あの・・・助けて頂いて、ってぇ!!」

 

 急に手につねられたような痛みがはしる。

 

 手の甲がしっかり赤くなっている。

 

「どしたの?」

 

 マリーが目を丸くしている向かいで、老人が笑う。

 

「お前を助けたのは、マリーに頼まれたからじゃ。こいつに感謝せい」

 

「は・・・はぁ」

 

「全く。最近の若者は覇気がないわぃ。今のガルスそのものじゃのぅ」

 

 口髭を撫でながらぶつぶつ言うと老人は立ち上がる。

 

 木の棚を開けて、さらに引き出しをあけ、ブリキ缶を取り出す。

 

 ひとつまみの干し草をつまみ出すと、パイプに詰めた。

 

 

「さ〜て。薪割りでもするかの。マリーはお使いにいってくれるかの?」

 

「は〜い」

 

 マリーは手際よく皿とパンを片すと編んだ籠をもって出かけていく。

 

 こちらに向かって手をひらひらさせているので、手を挙げようとすると、膝蹴りが入った。

 

「百年早いわ」

 

 口答えする勇気はしまって、老人の後を追って外へ出こと事にする。

 

 

 斧がが飛んできて、間一髪飛び退く。

 

 老人は積み上がった薪に腰をかけて、長い白い煙を唸りながら吐いた。

 

 とりあえず、斧を引っこ抜いて、手短にあった薪をアランは割り始める。

 

「ほう。手慣れてるの」

 

「いつもやってますから」

 

 とりあえずひたすら割ろう。

 

「ガルスのしゃれた貴族様もなかなか手厳しい教育をするんだの」

 

「俺はフォークス家の者です」

 

「あぁ、田舎の貴族様かぃ。忘れとったわ。おまえの義兄とかいうガキ共はガルスに送っておいたぞ」

 

 

「カ、カリタスを知っているんですか!? で、でも結界をどうやっ・・・」

 

 

 思わず手を止めて老人を見る。

 

 

 老人は魔力を秘めた目を細めた。

 

 

 そしてゆっくり口を開く。

 

 

「お前の何倍も生きてるからのぅ、たいていの事は知ってるし、大まかにこなせる。」

 

 

 老人は怪しげな笑みをたたえて、アランの眼を執拗に捉える。

 

 

 アランは眼の奥に隠されたものを見透かしているかのような視線にうろたえる。

 

 

 老人はまた一つ煙をはく。

 

 

 

 この人は・・・?

 

 

 

 朝露が革の靴ににじむ。

 

 

「どうして・・・」

 

 

 老人はゆらりと立ち上がる。

 

 

 白髪に映える漆の眼がアランを見やる。

 

 

 口元は意地悪く結ばれている。

 

 

 思惑の全く読めない表情にアランは戸惑う。

 

 

「孫には弱くての。あとは、ガルスのよしみってやつかの」

 

「・・・はぁ」

 

 戸惑うアランを老人は楽しそうに見つめる。

 

 

「あ・・・あなたは一体」

 

 

 ただ者ならぬ空気をかもしだして、老人は笑う。

 

 

 仕方なく視線を戻して、薪をもう一つ割る。

 

 

 使い古した斧はとても手にしっくりきた。

 

 

「ディレスが死んだようだね」

 

 

 老人は秋晴れの空を眺めながら爽やかに言い放つ。

 

 

「・・・!」

 

 

 ガルスの王の名を呼び捨てにするその老人は、パイプをくわえ直して笑った。

 

 

「ガルスを救いたいのかい、おまえさん。」

 

 

 柔らかな風がアランの耳飾りを鳴らした。

 

 

「出来る事をあなたは知っているんですか」

 

 

 甘い煙が風と共に舞う。

 

 

 青年はその老いた知性と感情を秘めた姿を凝視し、老人は若く純真なその魂を眺める。

 

 

「未来を担う若者に知恵を授けるのが老人の存在意義じゃしの。」

 

 

「ワシのことはマシューとでも呼んでくれ」

 

 パイプをまたくわえ直す。

 

 

「そんでお前・・・マリーの封印解いたじゃろう?」

 

 

「た、頼まれて」

 

「それはグットタイミング」 

 

 

 

 


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